ジャン・ヴァール『具体的なものへ――20世紀哲学史試論』




     弁証法的理性批判

「 […]われわれは〈生の悲劇性〉の名のもとに御用向きの観念論を拒否した。遠く、眼には見えず、近づきがたいがしかも意識的で行動的なあのプロレタリアートがわれわれに――尤もわれわれの大部分のものにとっては、漠然とではあったが――矛盾がすべて解消されたわけではない、という証拠をあたえつつあった。われわれはブルジョワ的ユマニスムのなかで育てられてきたが、この楽観的なユマニスムはみじんに砕けつつあったのである。なぜならわれわれはわが住む都市の周辺に、「己れの人間以下の存在を意識している人間以下の人間」の大群衆がいることを察知するようになっていたから。しかしわれわれはこの楽観的ユマニスムの破砕をいまだ観念論的、個人主義的な仕方で感じていた。このころ、われわれが愛読していた作家たちは、人生とは一つの醜聞である、と説いて聞かせたものだ。しかしながら、われわれの関心をひいたのは、仕事と苦しみとを身につけた現実の人間であった。われわれはすべてを説明してくれるような哲学をもとめていたが、それはすでに存在し、そしてわれわれの心の中でこのような要求をそそり立てているものこそまさしくその哲学なのだ、ということに気づいてはいなかった。この時期に、われわれの間では一冊の書物が大好評をえていた。すなわちジャン・ヴァールの『具体的なものに向って』Vers le concret である。またしてもわれわれはこの〈向って〉という言葉にごま化されていた。われわれは全的な具体性から出発したかったのであり、絶対的な具体性にこそ到達したかったのだ。しかしこの書物はわれわれの気に入った。なぜならそれは逆説や、多義性や、世界のなかでいまだ解決されていない矛盾などを明るみに出すことによって観念論を当惑させていたからだ。[…] 」

ジャン=ポール・サルトル著『方法の問題――弁証法的理性批判 序説』(邦訳、平井啓之訳、26-27頁、人文書院、サルトル全集第25巻、1962年初版発行)
*引用中のゴシック強調は、邦訳では傍点が付いている箇所を示す。




 1981年に、京都の河原町六角の古書店・赤尾照文堂で、『弁証法的理性批判』を購入しています。81年にもかかわらず、当時の私は、フーコーもバルトもドゥルーズも知らず、サルトルにひたすら傾倒していた高校生でした。


 そのころガイドとしてよく読んでいたのは、ジャン・ヴァール著『実存主義入門』(松浪信三郎・高橋允昭訳、理想社、初版1964年発行)と、竹内芳郎著『サルトル哲学序説』(筑摩書房、初版1972年発行)でした。(いずれも、河原町三条の古書店・京阪書房にて購入。購入年は不明。)

     ジャン・ヴァール著『実存主義入門』



 ジャン・ヴァールの『実存主義入門』の原題は、Les philosophies de l'existence です。複数形です。この書の「訳者あとがき」にもあるように、そのまま訳せば「実存の諸哲学」となるでしょうが、当時すでに、理想社から出ていた「実存哲学叢書」のなかに同じようなタイトルの書物があり、また、ヤスパース選集にも『実存哲学』という表題の本が出ていたため、まぎらわしいので『実存主義入門』としたとのことです。


「著者[ジャン・ヴァール]の視野はひろく、決して偏頗な評価をしない。そこがジャン・ヴァールという人の持ち味である。この書を「入門書」として推奨したい理由もそこにある。」 [『実存主義入門』、「訳者あとがき」、224頁]



 そのジャン・ヴァールによる『具体的なものへ――20世紀哲学史試論』が、月曜社から刊行されました(訳者・水野浩二、A5判・上製・348頁)。冒頭引用文において、サルトルが言及していた、あの書物です。僥倖というほかありません。

     ジャン・ヴァール『具体的なものへ――20世紀哲学史試論』



 まだ第1部のウィリアム・ジェイムズをめぐって論じた章(しかもその途中)までしか読んでいないのですが、本書が刊行されたということを、急いで、まずはここに記しておきます。

 目次などは ↓ をご覧ください。
http://getsuyosha.jp/kikan/versleconcret.html


 しかしご注意ください。実存主義の解説者としてのジャン・ヴァールという関心から、本書を手にとられたかたは、良い意味において、期待をおおいに裏切られることになるでしょう。

 ジェイムズを読むヴァールが見たジェイムズの「具体的なものへ」と、ヴァールがジェイムズを読むことをとおして見えてくるヴァールの「具体的なものへ」とが、分かつことなく絡み合い対話しあっています。サルトルの不満とは反対に、過程あるいは運動としての、この「…へ」(…に向って)が、本書の賭け金になっている気がします(第1章の途中まで読んだかぎりでは)。


 『具体的なものへ』は、月曜社のシリーズ「古典転生」の第2巻にあたります。
 第1巻は、エミール・ブレイエ著『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』(江川隆男訳、2006年発行)です。こちらもおすすめです。なんらかのモノづくりにたずさわっておられるかたには、特におすすめしたいです。
http://getsuyosha.jp/kikan/brehier01.html

     エミール・ブレイエ著『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』(




 ついでに ―― 同じく月曜社から『ミクロコスモス』という本が新刊で出ています。
 下記にて、目次などをご覧くださいませ。
http://getsuyosha.jp/kikan/microcosmos01.html

     月曜社『ミクロコスモス』



 さらについでに ―― 梅木達郎著『サルトル――失われた直接性をもとめて』(NHK出版、シリーズ・哲学のエッセンス、2006年)もおすすめです。
http://www.amazon.co.jp/dp/4140093293
 
 
 
 
 
 

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